西澤保彦「謎亭論処」読了。

べ、別に名字にひかれて買ったわけじゃないんだからね!w

いわゆる「タック&タカチシリーズ」の短編集。2001年4月、ノベルスにて刊行されたものの文庫落ち。
何故か2003年に出版された「黒の貴婦人」の方が2005年に先に文庫化されているのですがなんとそれ以降「タック&タカチ」のシリーズがまったく出版されていない!しかも「貴婦人」も「謎亭」と同じく短編集なので、長編としては2000年の「依存」以来実に8年も間が空いてしまっている。おーい、何やってんですか作者さんw
#もうひとつのシリーズである「チョーモンイン」の方も、新作の間隔はともかくメインの謎はずっと止まったままだし・・・。


このシリーズに限らず、西澤作品のひとつの特徴である「論理のアクロバット」は今作でも健在。その矛盾からそうくるか!というすっ飛び方が楽しい。「閉じ込められる容疑者の問題」が特にいいな。意外すぎる着地点なんだけど、頭から読み直してみると、ひとつひとつちゃんと布石(伏線とはあえて言うまい)を残している。

ただ、こと今作に限っては、ちょっと強引過ぎるムーンサルトがいくつかあるのが気になった。例えば「新・麦酒の家の問題」なんかそうなんだけど、ボアン先輩が鍵を手に入れた理由、というか鍵がそこにあった理由があまりに決め付けすぎやしないか?と。ポケットの中に入れていて、キッチンとリビングを往復していたのなら、何かのついでに玄関の方も行ってて不思議はないし、その際にころんと転がったりする可能性だってあるし。

それと、これはここ数年の西澤作品に共通する「後味の悪さ」がここで既に表れ始めている。救いが無いというより、一億総自家中毒傾向。「消えた上履きの問題」とか、よくもまぁこんな読後感の悪い短編を書いたな・・・。


このシリーズのその他の短編集と同様、タック、タカチ、ボアン先輩、ウサコの4人が揃って、あるいはそのうちの何人かが顔を合わせて、日常で起きたちょっと奇妙な出来事について、あれやこれやと推理を重ね、論じ合っているさまは、ミステリというよりむしろアンチ・ミステリの趣き。

面白いのは、最も論理的に謎を解明する「探偵役」が作品ごとに違っていること。タックのときもあり、タカチのときもあり、ウサコのときもあり。ボアン先輩のとき・・・は、あったかな?
とにかく、ミステリのシリーズものにおける「探偵」はたいていひとりと相場が決まっているのに、このシリーズでは誰が謎を解くのか、終わってみるまでわからない。一応、4人の中ではタックが一番頭がいいように描かれてはいるけど(というか、タカチやウサコがこういう論議に夢中になるようになったのは明らかにタックと親しくなってから)。

従って、彼らの議論を目にする読者の側も当然、常に「この意見はどうなのだろう」という緊張感を持って読むことになる。つまり、作品中でひとつの推理に対して考え込んだり異を唱えたりしている彼ら自身と同じことを脳内で行っているのだ。
そうして、いつの間にか自分自身がこの議論に加わっている5人目のメンバーのような錯覚を覚えてしまう。その錯覚が実に楽しい。

「依存」とか、今作では「閉じ込められる容疑者の問題」でもそうなんだけど、彼ら4人と関わっているうちに、その周囲の人間までもが彼らのようにあーだこーだと論理をこねくりまわす遊び(と言っていいのかどうかわかりませんが)の魅力にとりつかれてしまう、という描写が出てくるわけですが、このシリーズを愛読している読者もおそらくはまた、そんな遊びにハマっちゃってる「同士」なのだろうね。





このシリーズの長編が「依存」以来8年も空いてしまっている、と先ほど書きましたが。
「スコッチ・ゲーム」ではタカチの、「依存」ではタックのそれぞれ過去が主題となっていて、ふたりの関係が大きく変わる重大な転換点が描かれていた。
で、時制的にはそれより後の出来事であるいくつかの短編で判明していることは、ボアン先輩が、遂に、ようやく、奇跡的にw 大学を卒業して(同時にボヘミアンも卒業して)女子高の教師になったこと、タカチが卒業後に東京(?)で就職して時々安槻(あつき:架空の地名。おそらくは作者在住の高知県内という設定だろう)に帰っていること、タックは卒業後も安槻にいていまだに喫茶店で(時々)働いていること、ウサコが結婚しており大学院生でもあること、ぐらいじゃない?

読者としては、「依存」から卒業後に至るまでの間に、4人にそれぞれどんな出来事があったか、が知りたいんですよ。
特にボアン先輩。タカチとタックに加え、「依存」ではウサコの知られざる一面も知ることができるのですが、唯一ボアン先輩だけはどういう人となりでどういう過去を背負っているのか、これまでのところほとんど情報が無い。「依存」のラストで、どうやらボアン先輩はかなり本気でタカチを・・・というところまでは暗示されているんだけど、果たしてその思いにいかなる形で蹴りをつけたのか、あるいは女子高の教師となってからも変わらず引きずっているのか。
まさか江神さんのような重い呪縛を背負っている・・・なんてことはなさそうだな、さすがにw

・・・だから、もうそろそろ本格的な「続編」を書いてくださいorz
#「チョーモンイン」の方もかなり気になっているのだが。
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by exbaum | 2008-03-31 02:40 |